アメリカ合衆国への移民に関する問題

問題 ワシントン大行進50周年イベント(2013年)において、ジャーナリストのホセ・アントニオ・バルガスは次のような演説をした。

「私には夢がある。我が家と呼べる国の市民権を持ち、その国に貢献し続けたいという夢を。
私には夢がある。運転免許証を手に入れ、就労ビザを手に入れ、壊れた移民業制の制度に縛られない夢を。
私には夢がある。家族が別れ別れになることなく、20年も直接会えずにいる母さんを抱きしめる夢を。
私は米国を出国することができない。戻ってこられる保証がなく、母は渡米のためのビザの発給が認められていない。
私には夢がある。書類のあるなしで判断されるのでなく、私自身の人格や才能、私の提供できる技能で判断される夢を。
私には夢がある。怖がらずに生活でき、恥ずかしくて隠れたりすることがない夢を。法律ではなく、正義によって報われる夢を。私には夢がある。自由な人間である夢を。」 

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Photo: Jeff Hahne / Define American / Getty Images /

 ヴァルガス氏のスピーチに関心を持ったヒマリさんは、ソウタさんとメイさんとともに、アメリカ合衆国の移民史について探究学習をすることにした。
 以下の史料1史料3は、3人がそれぞれ集めた史料である。

 

史料1 ピルグリム・ファーザーズ(巡礼始祖)についての、ダニエル・ウェブスターの演説1820年12月22日、ボストン)

「彼らがこの岸辺を、その時にはまだ荒れ果て、凍え、未開で不毛の岸辺を目にしたとき、実は自分たちの国を見つめていたのです。あの思いの入り交じる強烈な感情、私たちが国への愛情と呼ぶ気持ち、人の心にあってまずは消えることのない心情、この地こそそれを注ぎ込み慈しむ先であったのです。土地と太陽以外に「国」となるもの全てを、心に働きかける愛情愛着という道徳的要因の全てを、彼らはその身と共にこの新たな住処に持ち来たったのであります。」
ニューイングランドの地に祖先を持つ人々が今や100万人以上も、60年前には人跡未踏の森林であった地域で自由で幸福な生活を送っていると言っても間違いないでしょう。川だろうが、山だろうが、海であろうが、勤勉で怖れを知らずに前進しようとするのを止めるものはないのです。すぐにもピルグリムの子孫達が太平洋岸に立つでありましょう。」

 

史料2 クレヴクールによって書かれた文章(1872年)

「ではアメリカ人、この新しい人間は、何者でしょうか。ヨーロッパ人でもなければ、ヨーロッパ人の子孫でもありません。したがって、他のどの国にも見られない不思議な混血です。私はこんな家族を知っていますが、祖父はイングランド人で、その妻はオランダ人、息子はフランス人の女性と結婚し、今いる4人の息子たちは4人とも国籍の違う妻を娶っています。偏見も、生活様式も、昔のものはすべて放棄し、新しいものは、自分の受け入れてきた新しい生活様式、自分の従う新しい政府、自分の持っている新しい地位などから受け取ってゆく、そういう人がアメリカ人なのです。彼は、わが偉大なる「育ての母(アルマ・マーテル)」の広い膝に抱かれることによってアメリカとなるのです。ここでは、あらゆる国々からきた個人が融けあい、一つの新しい人種となっているのですから、彼らの労働と子孫はいつの日かこの世界に偉大な変化をもたらすでしょう。」(『アメリカ農夫の手紙』第三の手紙、1872年)

 

 史料3 「排華の壁」(『パック』1882年3月29日)

 

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問1 史料1が回顧している出来事は、以下の年表①~④のうちのどの時期に起きたものか。

 ヘンリ8世が首長令を発布した
      ①↕

 クロムウェルが護国卿に就いた

      ②↕

 七年戦争が勃発した
      ③↕
 アメリカ独立宣言が出された
      ④↕
 メキシコがスペインから独立した

問2 史料3の風刺画を読み問いた、以下の文章中において、内容に誤りがあると考えられるものを一つ選べ。

対岸の中国側では、中国にある万里の長城が取り壊され、手前のアメリカ側では新たに「排華の壁」が建造されている。「偏見」「恐怖」「嫉妬」「人種差別法」など排華の理由とおぼしき言葉が刻まれたブロックを、19世紀後半に開通した初の大陸横断鉄道の工事に従事したアイルランド系、奴隷身分の黒人、旧・南軍退役軍人、イタリア系、19世紀後半にロシアを中心にポグロムと呼ばれる弾圧を受けたユダヤ系らの労働者が運んでいる。そのブロックを「連邦議会モルタル」を使って塗り固めているのは、アメリカ合衆国の象徴であるアンクル・サムである。

 

問3 3人は以上の史料を持ち寄り、次のような議論をした。会話文において内容に誤りがあると考えられるものを一つ選びなさい。

ソウタさん 史料1には「ピルグリム」、つまりイギリスのピューリタン清教徒)がアメリカ大陸に渡ってきたことが述べられている。
 でも、①その頃アメリカ大陸にいた先住民について、史料1からは読み取ることができない

ヒマリさん 史料2についても、多面的に読み取る必要がありそう。②クレヴクールの評価が果たして評価が、当時の人にどの程度共有されていたかを調べる必要があると思う

メイさん たしかに、クレヴクールはアメリカ合衆国イングランド人、フランス人、オランダ人などによって構成されていることに否定的な評価をくだしているようだけど、実際にはどうだったか、別の史料も必要ね。
ヒマリさん 出来事は、時間が経過すると別の評価や記憶に変わってしまうことがあるからね。

ソウタさん 同時に、移民の人びとがなぜアメリカ合衆国に渡ってきたのかという、移民側の視点がわかる史料も必要だと思う
メイさん 受け入れる側の視点だけでは不十分ということか。

 

解答

問1 ①。ピルグリム・ファーザーズのプリマス到達は1620年の出来事。

問2 ③奴隷身分。1865年の奴隷解放宣言とその後の憲法改正により、奴隷制奴隷貿易は廃止された。

問3 ③「クレヴクールはアメリカ合衆国イングランド人、フランス人、オランダ人などによって構成されていることに否定的な評価をくだしている」は誤り。肯定的な評価をくだしている。